十.



「さあ、私の背にお乗りなさい。」






広げた翼は、洞窟で見た時よりも何倍も大きく見え、それは朝日にあたって輝いていた。








「まず初めにズナゴムが乗って下さい。そう、翼の前です。


翼の後ろは、羽根が当たって私も飛びにくいし、乗ってる方もひどいものですよ。」








「おらが乗って、本当にいいだか。」





「大丈夫、乗ったら落ちないように、首に腕をまわして下さい。


それからリマ、ズナゴムの前へ、モムはリマのひざに乗って。いいですか、飛びますよ。」







ばさっと大きな羽根を動かす音がしたかと思うと、ペガサスは大地をけって、軽々と舞い上がっていた。





急に風が強くなったように感じられ、ふわっと浮き上がった心もとなさに、




モムはたてがみに顔を埋め、リマはモムを抱きしめ、ズナゴムは首に回した腕に力を入れた。








「ズナゴム、もう少し力をゆるめて下さいよ、それじゃあ首をしめられているみたいだ。」





「す、すまねえだ。」






あわててズナゴムが力をゆるめると、急に柔らかな乗り心地になり、リマとモムも顔を上げてあたりを見回した。







まわりはすべて空だった。









おそるおそる下を見ると、レガンの洞窟はとうに見えなくなり、山々の連なりと、緑の木々が一面にひろがっていた。













最初は吹きつけるように思えた風も、柔らかく髪をなびかせているくらいでしかなかった。






太陽が近くに感じられ、晴れわたった空は、限りなく、リマたちの前に続いていた。










「やっと楽になりましたよ。ズナゴムの力は、竜のしっぽなみなんじゃないかな。危うく首の骨が、折れるかと思った。」



「すまねえだ。おら、こんなことははじめてなもんでよ。」



「そうですね。でもこの世界が始まって以来、ペガサスに乗った森トロ−ルは、ズナゴムが初めてのはずですよ。

それもすぐになれるでしょう。」







「見て、あそこに羊飼いがいるよ、羊なんか、ちっちゃな綿みたいだね。」





モムは最初のこわさも忘れて、夢中で下をながめていた。













「ティリオンさん、これからどのくらいで失われた都に着くんですか。」



「そんなに堅苦しくならないで下さい。ティリオンでけっこう。


失われた都は、ここからほんの半日のところです。歩けばそれこそ、二日や三日はかかるでしょうけどね。」







「それからは?」






「それは私にもわかりません。



でも、私の弟は行って、帰ってきましたよ。私たちもきっと役目を果たして、帰ることができるでしょう。

それを信じなければ、どんな旅も成し遂げられません。」







「ありがとう、ティリオン。もう心配するのはやめるよ。」





「それでこそ、生き物の司が選んだ使いですよ。」






そう言っている間にも、景色は次々と変わっていった。







大きな森が流れるように消え、山が迫ってきたかと思うと、それは後ろへ飛び去っていった。







一度、セント−ルが平原を走って行くのも見えたし、旅のドワ−フたちが大きな荷物を背負って、歩いているのにも出くわした。




鳥たちは道をあけ、太陽はゆっくりとその場所を変えていった。




丸くきらめく水と、その中心にこんもりともりあがった、




真珠色の丘が見えてきたのは、午後もだいぶたって、三人とも少しお尻が痛いと感じてきたころだった。

















「あれが失われた都、虹の城の廃墟です。」






ティリオンはそう言って、少しずつ高度を下げていった。



木が近づき、その葉の一枚一枚がわかるくらいになると、



いきなり目の前がきらきら光るものにかわり、あっと言ったかと思うと、ティリオンは失われた都、虹の城の廃墟に立っていた。










「さあ、着きました。」





一度ばさっと羽根をはばたいてから、ティリオンは翼をたたんだ。



しびれるお尻をなでながら、モム、リマ、ズナゴムの順で、三人は降り立った。



何か、なつかしいものでもあるかのように、ズナゴムはどすんどすんと地面を踏みつけ、モムは空を見上げて、ただ、はあ−っと言った。










リマはあたりを見まわして、そこが細かい砂のようなものでできた丘だということ、




そして、生き物の司に言われた番人が、見当たらない事だけ見て取ると、ティリオンに目をむけた。









「番人の双子という人たちはどこにいるんだろう。」





「彼らはもう、目の前に来ていますよ。呼んで見ましょうか。」





ティリオンは堀の水に向き直ると、 静かな口調で話しかけた。










「ギスク、ダスク、私たちは生き物の司さまからの使いだよ。姿を見せておくれ。」





すると、目の前の水がざわざわと揺れ出し、緑色の頭が二つ、浮き上がってきた。





息をこらして見つめていると、それは岸の方に進み、やがて頭から肩、肩から腰が現われて、



あっけに取られるリマたちの前に、水草を体中にまとった二人の男が立っていた。






背丈はちょうどリマくらいだが、幅はリマの倍くらいもあり、背中は大きなこぶのように曲がっていた。



肌の色が緑色なのは、水こけのせいか、それとももともと緑色なのか、リマにはわからなかった。










「このふたりがギスクとダスク、川男の双子ですよ。」



ごくんとつばを飲込んだまま、ひとことも言わないリマたちを見て、ティリオンはおかしそうに言った。







「川男に会うのは初めてですか。」





「ええ。」





リマは双子から目を離さずに、うなずいた。




モムが一番早くわれにかえって、双子の足下にはいよると、垂れ下がっている水草にちょっとさわって、おそるおそる聞いた。






「これ、服なの?それとも身体の一部?」




双子は顔を見合わせた。








「めずらしいお客のようだぞ、ダスクよ。」



「そうだな、兄き。白い羽根の生えたお馬は見た事があっけど、ちっちゃいのやら、おっきいのやらは見た事がねえ。」








「ぼくは絵具師見習のリマ、コボルトはモム、そして森トロ−ルはズナゴムといいます。」




「森トロ−ルってのは、ほんとにいるんだなあ、兄き。」




「おれが小僧の時に聞いた話じゃ、森トロ−ルは川男を食うって聞いたが、そんな感じじゃねえぞ。」








「さあ、もう自己紹介はおわりにしていいね。


日も暮れてきた事だし、そろそろ君たちの館に案内してくれないか。



大丈夫、森トロ−ルは、川男を食べたりはしないよ。」











えんえんと続きそうな双子の会話をさえぎって、ティリオンは言った。



「お前たちは水にもぐれるかね。」



兄のギスクが聞いた。



「ギスク、私もいるんだから、水の中からは入れないよ。丘の扉を開けておくれ。」



「そうだった、そうだった。弟よ、丘の扉はどこだったかな。」





「兄きが覚えていたはずだぞ。たしかここから、西へ十二歩いったところだったかな。」





「いやいや違うぞ、弟よ。西に十歩行ってから、北に三歩だったろう。」



「いや、北は四歩のはずだ。」




「もういい、私が場所は知っているよ。」



ティリオンはリマについて来いと、目くばせすると、丘の真ん中に向って歩きだした。













「彼らはいつもこうなんです。言う通りにしていたら、本当に日が暮れてしまう。」


ティリオンは、リマに耳うちするように言った。





「でも、いい人たちみたいですね。」




「そう、それは私が保証しますよ。


ぼんやりしているようですけど、生き物の司から、ここの見張りをまかされている者たちですからね、いざとなったら頼りにもなります。」






ティリオンは丘の頂上まで行くと、振り返って言った。












「扉はここのはずだよ、さあ、開けておくれ。」



「これはたまげたぞ、兄弟よ。」



「白いお馬は、おれたちより、ものを知っているぞ。」







二人はそんな事をぶつぶつ言いながら、腰のひもにぶらさがっている小さな鍵を取り出して、何やら砂の中をさがしていた。



やがて、カチリというかすかな音が聞こえると、ギスクは振り返った。









「ここが扉だ。入ってくれ。」





ざあっと砂がこぼれる音がすると、丘の頂上に大きな穴が開いていた。




中は階段になっており、こぼれ落ちた真珠色の砂が、石の階段の上できらきらと光っていた。








「さあ、入りましょう。」






さすがに翼を折りたたんでも、ティリオンはきゅうくつそうだったが、ズナゴムが立って降りてゆかれるほどの、大きな階段だった。










「ねえ、リマ、ここはもしかしたら、お城の地下室だったんじゃない?」


「そのとおり。砂に埋もれていた地下室を、川男たちが作りかえたのです。


出入り口は彼らが作ったものだけど、この階段と、これから行く部屋は、虹の城の地下室そのものなのです。」






「ふうん、やっぱりそうかあ。」



モムがめずらしく感心したように、腕を組んでうなずいた。


壁の両側には、小さなろうそくがてんてんとついており、






先頭にたつティリオン、リマ、モム、ズナゴム、そしてまだ、ぶつぶつと言い交わしている双子の川男を照らしだしていた。






「ちょっと待ってくれ。」



「扉を開けねえとな。」





一番後ろを歩いていた二人が、そう言って前に出てきた時、階段は終わり、目の前に大きな鉄の扉が現われていた。


今度は弟のダスクが、大きめの鍵を取り出し、鍵穴にあてると、鉄の扉はきしむような音をたてて、向う側へ開いた。









そこは四角い大きな石作りの部屋だった。







真ん中にあるテ−ブルには、ろうそくが何本も立てられ、




左の奥にはかまどと棚、右の奥には、わらが大きな鳥の巣のように積まれていた。



手前の二つの角には、いろいろなものがほこりをかぶったまま、放り出されていた。








「ここが川男のすみか、虹の城の番人小屋だ。」




「遠慮はいらねえ。ゆっくりしていってくれ。」




二人はそう言うと、ひょこひょことかまどの方に走っていった。









「みんなゆっくりしましょう。落ち着いて眠れるのは今夜が最後でしょうから。」




ティリオンはそう言って、長い四本の足を折り曲げた。リマもほっと小さなため息をつくと、古い木の椅子に腰をかけた。



ズナゴムは椅子に腰かけようとしたが、



どうしても椅子の大きさと、自分のお尻が合わないとわかると、ふんといって床にあぐらをかいた。







「ねえ、あのすみに積んであるものを、見てもいいかな。」





モムがこらえきれずに、リマに聞いた。




「さあ、どうだろう。ティリオンに聞いてごらん。」







「いいでしょう。川男たちは、何もあのがらくたを守っているわけじゃないし、

何かこれからの旅に、役立つものが見つかるかも知れない。」






「わあい、いいんだね。」





モムは喜びの声を上げて、部屋の隅にうずたかく積まれているものの方へとんで行った。







「いじくっても、持ってってもいいが、くずれた時に、下敷きにはならねえようにしてくれ。」




ギスクが、モムの声を聞いて、そう言った。










やがて、いい匂いが部屋中にたちこめてくると、リマもズナゴムも、モムの事は忘れてしまった。



ティリオンは黙って、ダスクの出してくれた草をもぐもぐと食べていた。









「うわ−っ。」






モムの叫び声といっしょに、ガラガラガラという大きな音がした。



リマが立ち上がり、ティリオンはびっくりして首を上げた。








「やっぱりやっちまったか。」






ギスクがそうつぶやいて、音のした方へ駆け出した。



リマとズナゴムも、あわててその後に続いた。



ほこりにまみれて、色すらもわからなくなってしまった物たちの下から、赤いとんがり靴をはいた、二本の足がとびだしていた。







「今、どけてやっからな。」



ギスクを手伝って、ズナゴムがモムを引っぱりだすと、モムは真っ黒になった顔で、えへへと笑った。






「モム、いたずらはもうやめなくちゃな。」



リマが怒って言うと、モムは頭をかきながら、小さくごめんなさい、と言った。



モムは上目でリマを見て、それ以上怒られないとみると、いきなり手に持っていた物を差し出した。









「これをとろうとしたんだよ。」


それは何か細長い物だったが、ほこりにまみれて、よくわからなかった。





「ああ、それか。そんなもん山ほどある。」



ギスクはモムが無事なのを見ると、モムの差し出した物には興味も示さずに、かまどの方へ戻っていった。








「何だい、それは。」




リマが手にとって、ほこりを払うと、下からきらきら光る宝石と、金色の地肌があらわれた。





「すごい。」





リマはそう言うと、何気なくその細長い物を引っぱった。




それはするりと抜け、みんなの目の前には錆びひとつなく、輝いている剣があった。




いつの間にかそばに来ていたティリオンが、それを見て言った。







「よい物を見つけましたね。



それは竜の牙と呼ばれる剣で、古王朝の王子が身に着けていた物です。

王子のために造られたものですから、少し短めにできていますが、切れ味は最高のはずですよ。

もともとこれは、竜の爪と呼ばれる剣と対になっていましたが、

竜の爪はこの城が滅びた時、王とともに失われたと聞きます。

これからの旅で、役に立つかも知れません。」






「でも、こんな物を持っていってしまって、いいんですか。」






「いいでしょう。ここにあるものは、今でこそ、がらくたにしか見えませんが、すべて王宮の宝物なのです。

かき分けて捜せば、それくらいの物はたくさん出てきますよ。」






「へえ−っ。じゃあもうすこし捜して、何か役に立つ物を見つけよう。いいよね、ティリオン?」






「いいでしょう。でも、さっきみたいに、また下敷きにならないようにして下さいよ。」





テ−ブルにス−プの皿が並べられて、焼いた魚がいい匂いをたてても、モムはがらくたから離れなかった。








「まだ何か捜してるんかね。」






「ちっちゃいコボルトは、よっぽど珍しいものが好きならしいぞ。」





「おら、呼んでくるだ。」





ズナゴムがのそのそと立ち上がり、がらくたの中にほとんど埋もれて、何かをいじっているモムに、



かがみ込んで話しかけた。モムははいだしてくると、ズナゴムに何か持たせて、やってきた。










「お待たせしました。」




「モムよ、これはどこに置いたらいいだ?」



「そこに置いておいて。そっとだよ。」




「何を捜していたんだい?」



「いいもの、たくさんあったよ。でもそれはお食事の後のお楽しみ。」







「まあいいや。でも手だけは洗ってくれよ。その手でパンをちぎられたんじゃ、黒くあとがついちゃうよ。」




「水はかまどのわきの桶にある。」




手を洗ってきたモムが席に着いて、食事が始まった。







新鮮な魚を焼いた物や、塩味のス−プ、貝を干した物やいろいろ木の実を、みんなはおなかいっぱい詰め込んだ。







ダスクとギスクは食べ終ると、変わった匂いの煙草を吸い始め、ズナゴムはパンパンになったおなかをなでた。



モムは食べ終ると、すぐに椅子をおりて、ズナゴムが運んできたほこりの山に駆け寄った。









「さあ、いいかい。」






モムはそう言って、ひとつづつ取り上げては、得意そうに話し始めた。


首飾りや指輪、剣や盾、小さな箱や、きれいな金槌まであった。


それはどれも宝石や、金で飾られており、少しこすると、ほこりの下から美しい輝きが現われてきた。






「ね、すごいでしょう?やっぱり星々の司に会いにいくんだもの、これくらい着けていこうよ。」





「モム、遊びにいくんじゃないんだよ。」




リマが続けて言おうとするのをさえぎって、ティリオンが優しく言った。








「モム、星々の司は、姿かたちでひとを見たりはしない。

今度の旅は、こんな物を持って行ける余裕があるなら、ビスケットの一枚も持っていた方が役に立つと思いますよ。

とはいえ、せっかく集めてきた物です。これだけ持って行きましょう。」






ティリオンはモムの前に並んでいる中から、いくつかを前足で端によけた。





「リマは、最初に見つけた竜の牙を持って行くといいでしょう。


モムにはこの短剣を、ズナゴムはこのペンダントをして下さい。私は何もいりません。」






「きれいだが、おらあ、こんなもんが首からぶらさがってちゃ、じゃまでしょうがねえ。」







「ズナゴム、それには魔法の力があるのです。

それにむかって呼びかければ、どんなに離れていても、話ができるのです。

それにモムとリマは剣くらい持って歩いて、邪魔になる事はないでしょう。」






「ねえ、ティリオン、ぼく、剣よりもこっちの方がいいな。」





モムはおずおずと金槌をひろいあげた。





「おれもそう思う。」




「兄きの言うとおりだ。コボルトに剣は似合わねえ。」







「いいでしょう。でも私はその金槌を、見たことがないんです。どんな力を持っているのか、わかりませんよ。」







「それなら、おれたちが知っている。なあ、弟よ。」




「そうだ、それなら知っている。それは昔、ドワ−フの王から、捧げられた物だ。」




「そう、それに名はないが、王の金槌と呼ばれていた。」




「どんな物でも、金っけの物なら、それで軽く叩いただけでも、言う事を聞く。無駄にはならねえだろう。」




「わかりました。じゃあもう今日は寝るとしましょう。明日は朝早く出発しなければならないのですから。」











みんなはふかふかした枯れ草の中に、身体を寄せ合った。





草はこうばしい香がして、暖かかった。





モムはズナゴムのかげにうずくまり、リマはペガサスの白くて長い顔に頬を寄せると、ひとこと、おやすみ、と言った。














リマが目を覚ますと、部屋は煙でいっぱいだった。






痛むのどをおさえながら、手で煙を追い払うと、リマはあたりを見回した。



となりには誰もいなかった。






あわてて飛び起き、煙のもとの方に歩いて行くと、いきなりどすんと人にぶつかった。






「お目覚めかね。今、魚をくん製にしてるところだ。もう少したったら出来上がる。」




「みんなは上にいっちまったよ。なあ兄き、これくらいの煙でなあ。」





「おはようございます。」





そこにいたのがギスクとダスクだと気が付くと、リマは二人がいると思われる方にお辞儀をした。




「おれたちはこっちだ。どうでもいい事だがな。」




「それより、上に行くんなら、そのまま真直行けばいい。階段につまづかねえようにな。」





「はい。」





リマは短く答えると、鼻と口を押えて駆け出した。



階段を二回つまづいて、やっと表に出た時に、リマは大きく深呼吸をした。





すると目の前にモムが笑っていた。






「よくあんな中で眠っていられたね。」



「起こしてくれればいいのに。」



「だって、あんまり気持ちよさそうに眠っているんだもの。」




「おはよう。」



「おはようございますだ。」



ティリオンとズナゴムが、さっぱりとした顔でリマに言った。







「おはよう、二人とも。」



「いよいよ出発ですね。旅立ちには最高の天気だ。特に、これからは歩いての旅ですから、天気なのはありがたい。」



ティリオンとリマが、そう言って空をあおいだ時、川男の声が聞こえた。








「めしができたぞ。」




みんなはあの煙を思いだして、こわごわと階段を降りていった。



しかし、どこへ抜けていったのか、かすかな匂いを残すだけで、煙は跡形もなく消えていた。



「めしにしよう。」




「そうだ、朝めしの時間だ。」




みんながテ−ブルを囲み、食事が始まると、初めにギスクが言った。




「お前たち、これからどこへ行くね。」







リマが顔を上げてティリオンを見ると、ダスクが続けた。







「言いたくなけりゃあ、言わねえほうがいい。弁当は十日分用意した。

飛んで行くのか、歩いて行くのかしらねえが、ここから東に行くんだったら、気を付けるにこしたことはねえ。」







「そうよ、弟の言うとおりだ。おれたちゃゴライアスさまから、ここの番人を仰せつかってる。

ただここにいると、いろんなことが耳に入ってくるもんだ。

できりゃあ、東へは行かねえ方がいいだろう。

それにどうしたって、ここから東へ歩いて行けば、ゴルの門で行き止りよ。

好んであそこへ行くやつなど、いるわけがねえ。」







「ここから東には、いったいどんな者がいるんですか。それとゴルの門は、何でそんなに恐ろしいところなんですか。」





リマはフォ−クを動かす手を止めて聞いた。






「こりゃ驚いた。そこの白いお馬から聞いてはいないのかね。」






ギスクとダスクは顔を見合わせた。リマはわけがわからずに、ティリオンを見た。


ペガサスはつらそうに目を伏せると、思い切ったように話しはじめた。







「確かに私は知っています。ゴルの門に住まう者の事を。


やつは、そう、太古の昔からそこに住んでいるのです。


やつこそ、堕落させる者、デ−モン、つまり悪魔なのです。」







「そのとおり。ゴルの門に住む悪魔こそ、悪魔の親玉、クラウシュク・テビテ・ゴルなのさ。

この白いお馬の兄だか、弟だかはしらねえが・・・」








「私が言う!」





ティリオンは初めて見せる激しさで、ギスクの言葉をさえぎった。






「私の弟、リュシオンは二人の竜騎士について、ゴルの門をくぐった。そして悪魔に出会った時に・・・。」





そこでティリオンは言葉を切り、うなるように言った。










「逃げたのだ。恐怖に我を忘れて、その乗り手を置いたまま。」







白いペガサスは、身体をふるわせて目を閉じた。





モムはその足をそっと抱きしめた。






「白いお馬には、情けないことなんだろうがな。おれたちにしちゃあ、あたりまえ、やつの前に出られただけでも大変なこった。」





「そうよ、その時の竜騎士もここへ泊まった。強そうな、立派な騎士たちだったが、果たして帰って来られたのやら。」









「帰ってきたんです。そしてその一人が、ぼくのおとうさんなんです。」



「ほう、こりゃあ。」



「なんといっていいか。」




川男たちはまじまじとリマを見つめると、顔を見あってうなずいた。








「何とはなしに、お前たちの役目がわかったようだ。


あの時の竜騎士のせがれに、あの時のペガサスの兄か。


もう何もおれたちは言わねえ。ただ、おれたちの聞いていることを話そう。」






「そうだ、兄き、それがいい。」






「ここから東に行って、まずドワ−フの村がある。

といっても、歓迎してくれるわけじゃあない。

やつらはドワ−フの中でも、特に古い血を保っているやつらだ。

いろいろと怪しげな事も聞く。



魔法を使うとかな。



それから気を付けなくちゃなんねえのは、森のばばあだ。

やつは魔女さ。それも、たちがいいと は、決して言えないようなやつよ。

それからは巨人が出るとか、出ないとか、小さな子供だけの村があるとか聞いている。

特に夜は気を付けるこった。

まさかペガサスといっしょにいるところを襲うほど、勇気のある奴等じゃないが、ゴブリン鬼がごろごろしてる。

おれたちが聞いているのは、それくらいだな。」



ギスクは言い終ると、ダスクを見た。







「兄き、忘れちゃいけねえ。東の森じゃ、生き物を殺しちゃなんねえって、掟だ。」




「そうだったな、弟。」




「わかりました。いろいろとありがとう。食事も速くすませて、早速でかけよう。」






リマが言うと、みんなはうなずいて、食べ物を口に運びだした。






さっきまでおいしかった料理も、今では何の味もしなかった。












リマは剣を腰にさし、モムはベルトに金槌をさしこんで、真珠色の砂の上に立っていた。






ズナゴムは大きな荷物を背負い、こんぼうを片手にペガサスの後ろに立っていた。




その胸には銀色のペンダントが、もしゃもしゃの毛に、埋もれるようにして光っていた。




二人の川男は扉のところに並んで立ち、悲しいような、まぶしいような目で見守っていた。







「じゃあ、行きます。ギスクさん、ダスクさん、ありがとう。」



「気を付けて行けや。道は遠い。」






「ペガサスよう、仕方のねえ事を思いださせて悪かったな。」


ティリオンは首を振った。






「さあ、私に乗って下さい。堀を飛び越えますよ。」


三人はティリオンの背にまたがり、手を振った。





「さようなら。」





ティリオンは翼を大きく一度ふると、一気に飛び上がり、気が付いた時には堀を飛び越えていた。



振り返ると、川男たちは手を振りながら、水の中に消えていってしまった。









「これからは歩きです。行きましょう。」





リマはティリオンと並んで、うっそうと繁った森の中へ踏み込んでいった。

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