四.

「さあ、がんばって行こう。

もう昼も大分過ぎてしまった。

急がないと、日が暮れるまでに、ギリッシュには着けないぞ。」



「うん、でもリマ、お昼ご飯はどうするの?

ぼく、もうおなかがぺこぺこだよ。

ちょっとお弁当にしようよ。」



「だめだよ、モム。

日が暮れちゃったら、何が起きるかわからないんだよ。

ね、もう少しがんばろう。」




しょぼしょぼとうなだれるコボルトを励ましながら、

リマはことさら元気を出して、ギリッシュへの道を歩きだした。




しかし二人と も、タルナスの事、

そしてボルオンの事、これからの旅の事を考えると、その足取りは重くなりがちだった。





森の憩い亭をでてから、森ぞいに進むと、やがて「街道」とだけ呼ばれている古い道にぶつかる。


そしてその街道を、右にどこまでも行くと、そこがギリッシュの村であった。





リマたちはとりあえず、その街道を目指して歩いていた。



「リマ、見てよ。森がなくなっている!」



街道に出る二ク−ンくらい手前で、モムは森を指差してそう叫んだ。




「ボルじいさんの言ってた焼け野原って、ここの事だったんだ。」


リマもその無残な焼け跡に、呆然としてつぶやいた。





そこにかつての美しい森は跡形もなく、ほとんど消し炭のようになった木々が散らばっているだけであった。




「さ、行こう。」



「ちょっと待って、リマ。あそこに誰かいる!」





「どこだい?」


「ほら、あそこ。」




モムの指差すほうを見ると、確かに焼け跡のはずれに、うずくまっている黒い影が見えた。





「誰だろう。ゴブリンの見張りかしら。」



モムがこわごわリマにすりよって来ると、リマもその肩をぎゅっと抱いて、影をにらみつけた。



「モム、ここにいて。行ってみる。」

「大丈夫?」

「うん。」



思い切ったようにうなずいて、リマは一歩一歩踏みしめるように歩きだした。


「ぼくも行く。」


二人は固く手をつないだ。



近づくにつれて、奇妙な低い音が聞こえ、それがうなり声だと気がついたのは、ほんの目と鼻の先まできてからだった。





「ゴブリンにしては、ちょっと大きすぎるみたい。それに何だかぐったりしてるよ。」


モムは怖さと見たさでそわそわしていたが、

とうとうがまんしきれずに、その人影にそっと近づくと、顔をのぞきこむようにして言った。




「ねえ、どうしたの?具合でも悪いの?」



びっくりしたように振り向いた顔は、もしゃもしゃの髪の毛、丸い鼻とまっ赤なほっぺたの、森トロ−ルであった。





「おめえだれだ?」



「ぼくはコボルトのモム、絵の具師見習のリマと旅をしているところ。

ところで君は誰?

それから具合でも悪いの?」




「コボルトと、えしのしみたらい?

どうもくいもんじゃなさそうだあ。

その、えしのし、ってなんだい?

くいもんかい?」



「ちがうったら。

リマは食べ物なんかじゃないよ。

え・の・ぐ・し・み・な・ら・い。」



森トロ−ルは、不思議そうに首をかしげた。



「もう、わかんなきゃいいよ。

それより、なんでこんなところでうなってるの?」




「おらか?

おらあ腹がへっちまってよ、動けねえし、動けねえと食いもんはつかまらねえし、

つかまらねえから、もっと腹はすいてくるし、どうしようもなくってよ、

ここでうなっているんだあ。

なんか食うもんはねえか?」




「おなかがすいてるんだって。」


そう言ってモムは振り返った。

リマは笑いながらうなずいた。




「悪いやつじゃなさそうだし、ぼくたちのお弁当を分けてあげようよ。」


リマはそう言って、モムにかばんを差し出した。




「ぼくたちのお弁当、少し分けてあげる。

腕によりをかけて作ったやつだから、ほっぺたなんかおっこちちゃうぞ。」



「えっ、食いもんくれるだか!」


森トロ−ルは、いきなり、がばっととびおきると、モムににじり寄った。


「ほら、落ち着いて。そんなにのぞきこまないでよ。ちゃんとあげるから。」





きれいなハンカチの上に、お弁当をひろげると、それは手品のように、かたっぱしから消えていった。

木の葉で包んだパイは、木の葉ごとなくなり、香り草で焼いた、いいにおいのお肉は、ひとのみにされてしまった。

二人はあまりの速さに呆然と見とれていたが、はっと気が付いたようにモムが叫んだ。




「もうだめ!」



森トロ−ルが、びっくりしたように、口にもっていきかけた手を止めたとき、

お弁当は毛むくじゃらの手のひらに残る、ビスケット一枚になってしまっていた。



「あ−あ、みんな、なくなっちゃった。」


モムはほとんど泣きそうな顔で言った。




森トロ−ルはすまなそうにうつむくと、上目がちにそっと一枚のビスケットを差し出した。


「すまねえ。みんな食っちまっただ。」


リマはごくんと、大きくつばを飲込むと、元気を出してモムに言った。




「そんなにしょげないで、モム。そのビスケットはあげるから。ね。」



モムはうなずいてしばらくビスケットを見つめていたが、思い切ってそれをサクッと二つに割った。



「半分こしよう。はい、これがリマの分。」


リマはモムの顔を見ると、ニコッと笑ってうなずいた。


そしてそれを一口で食べ終ると、小さくなっている森トロ−ルに言った。




「森トロ−ルくん、ぼくたち、もう行かなくちゃんならないんだ。

お弁当のことは、気にしなくてもいいよ。

ギリッシュの村へ行けば、食べ物はまた手に入るから。」



「おめえたち、これからどこへいくだか?」



「ぼくたち、大事な用があって、遠くまで旅するんだよ。

なぜかよくわからないけど、お師匠さまの言いつけなんだ。」




「おらもつれていってくれねえか。

帰ってきたら家は焼けちまってるし、とくべつどこに行くあてもねえ。

おめえたちはいいやつだ。

大事な弁当を食っちまっても許してくれた。

おら、頭は悪いが、力ならたんとあるでよ、おめえたちを守ることが、できるかもしんねえ。

な、つれていってくれろ。」



リマとモムは顔を見合わせた。


「いいじゃない、リマ。旅はたくさんで行くほうが楽しいよ。」




「モム、今度の旅はいつものような、おでかけじゃないんだよ。

ボルじいさんだって言ってたけど、何か危険な事が起こっているんだ。」



「だったら、よけい3人で行くほうが、心強いじゃない?

ねえ、いいよね。」



大きな体を、ちんまりと座らせている森トロ−ルを見て、リマはしばらく考えていたが、思い切ったようにうなずいた。




「君の名前は、何て言うの?」


「おらあ、ズナゴムっていうだ。」


「じゃあ、ズナゴム、一緒に行ってくれるかい?」

「いっしょに連れてってくれるだか、うほ−い、うれしいなあ。」

「よかったね、ズナゴム。」




「よし、そうと決まれば出発だ。

早くしないと、今日のうちに、ギリッシュまでつかないぞ。

さあ、行こう。」





サッサッサッ、パタパタパタ、ドスドスドス。




三人はギリッシュ目指して歩きだした。

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