第5章 強さ
明朝六時、アトモスなどのクランの者が北門周辺に集まっていた。
誰もが魔物との戦闘を今か今かとそわそわしていた。
しかし、数名の物は違った。
「北の洞窟ねぇ・・・・なんで封鎖しなかったんだ?」
と、ラスフェス。
「神隠し・・・・お前も聞いたことあるんじゃないか?」
と、伏一貴。
「えっと・・・確か、ダンジョンの奥とかに行くと帰って来れないってやつか?あれって噂じゃ・・・」
「いや。実際に俺の部下が何人か消えてる。だからうかつに遠くには行けないんだ」
「なるほどねぇ・・・でも、何であの洞窟があるっていうデータがあるんだ?」
「ん・・・・・確かに妙だな・・・・」
ラスフェスと伏一貴は互いに顔を見合わせた。
「今回の新兵器・・・ちゃんと使えるんだろうな?」
と、カルリラ。
「そんな事を私に聞かないで下さいよ。技術研究を仕切っているのはラーウィですよ?」
と、洋パパ。
「そっちこそ大丈夫でしょうね?長い間戦ってないから腕が鈍っているのでは?」
「いざというときはこれを使うさ・・・」
カルリラは左腕を軽く押さえた。
「・・・・・・・・・」
「ひ、姫・・・」
早苗嬢は心配そうな声を上げた。
セレスフィアは遥か北を、魔物が来るであろう方向を瞬きせずに見つめていた。
「・・・・来る!」
セレスフィアは呟くと、腰の剣を抜いた。
その直後、
「物見からの伝達!十二時の方角より魔物を確認!」
連絡の担当であろう者が早口でまくし立てる。
「・・・・・・」
伏一貴は腰の剣を抜くと、前方を睨み続ける。
「はぁ・・・」
カルリラはため息をつくと、魔弓・サイハを構えた。
「いらいなえゆおら・・・・・」
洋パパは何かを呟くと、背中に背負った大剣を抜いた。
「アインハザードよ・・・ご照覧あれ・・・」
ラスフェルが腰の円柱形の物を取り出すと、ブゥンと音が鳴り、青い円柱状の光が飛び出した。
ドドドドドドドド・・・・・
地面が揺れ、前方に砂塵の雲が現れる。
先行するのは、獣に乗り、機動力のある者や、飛行能力を持つ魔物だった。
そのまま当たれば、苦戦は必至だったろう。
しかし・・・・
ヒュッ!
ふいに風を切る音が聞こえ、城の中から黒い砲弾がいくつも放たれた。
放たれた弾は、魔物たちの中に着弾すると、火柱や氷柱が立ち上り、魔物たちを飲み込んでいった。
「これは・・」
伏一貴が驚いたような声を上げた。
「ごめん。調整に手間取った」
門から出てきたラーウィの左腕には、手首の同じくらいの大きさの筒がつけられている。
「それが・・・新兵器か?」
「ああ。中心にカオスレザーで属性効果をつけて・・・」
「ガァァァッ!!」
説明をしていると、不意に四足獣型の魔物が飛び出してきた。
「・・・こうなる!!」
ドォン!!
腹に響く轟音の後には、炎に包まれ苦しみ悶える魔物がいた。
「なるほど・・・じゃあ任せていいね?」
カルリラの一言にこくりとうなずくラーウィ。
「それじゃあ・・・本気を出すか!」
その一言に、セレスフィア、伏一貴、洋パパ、カルリラ、ラスフェルは走り出した。
「・・・・・・・」
ブゥン
セレスフィアの片手から放たれた魔法は、五人を包んだ。
グローウィンオーラ・ブレイブオーラ・シャイニングオーラを同時にかけたのだ。
自分を鍛え続けたセレスフィアは、制限時間のある魔法を永久にかかった状態にする事が出来るようになっていた。
しかし、これをできる者は後数人いる。
ザスッ! ザクッ!
セレスフィアは、ゴミを見るような目で魔物たちを切り捨てていく。
その姿は、無慈悲な主と言ったところか。
「ガァァァァッ!!!」
「シャァァッ!!」
セレスフィアの全方位から魔物たちが同時に襲ってくる。
普通ならひとたまりもない。
しかし・・・
パチン
セレスフィアは剣を鞘に収め、詠唱の体勢に入った。
「蒼天より来たれ。裁きの槍・・・」
すると、セレスフィアの左手に光が集まり始めた。
その間も、魔物たちは間合いを詰め寄る。
「・・・・ゼウスの名の下に、全てを貫け!!」
天に掲げた左手の光が爆ぜ、空から十筋の光が降り注ぎ、敵を貫いた。
君主魔法の唯一にして、最強の攻撃魔法だ。
空から降り注ぐ光の槍で敵を貫く。メテオストライクをも上回るという。
しかし、敵味方を問わずに巻き込むので、普通は使わない。
だが、セレスフィアは、不可能と言われる魔法の操作をやってのけ、的確に敵にのみに当てることができた。
手に持つ剣と光りの槍、神々しくさえ見えるその姿から『残酷な天使』の二つ名がつけられている。
「雑魚が・・・・」
ジャラ・・・
伏一貴の右手に持っている短剣の柄頭には、鎖分銅が付いていた。
抜いた剣を逆手に持ち・・・
ジャッ!・・・バシン!!バシン!!
近くの敵をまとめて打ち据え、
ジャッ!・・・・ギリ・・ギリ・・・
「グオオオオ・・・・」
自らの数倍の体格差がある魔物にまきつけ・・・
ボキ・・・バキ・・・・ブチィィン!!
鎖を締め付けて魔物を引きちぎった。
ヒュッ!
左手のガントレットは指先が鋭利になっており、爪としての役割を果たしている。
剣・爪・手甲のダークエルフの全ての装備を同時に装備しており、その強さも追随を許さない。
「わが主のため!貴様の命をもらう!」
ダークエルフジェネラルの鋭い一閃が、伏一貴の体を真っ二つに裂いた。
しかし、伏一貴からは血が出なかった。
「なっ・・・」
その様子にダークエルフジェネラルが絶句していると、
ドン!
一瞬にして自分の心臓の位置からスティングの刃先が飛び出ていた。
瞬動術
ダークエルフの秘伝とされる移動術であり、その速さは音を超えるという。
伏一貴は独学で覚え、体得していたのだ。
ジェネラルの斬った者は残像だった。
「雑魚が・・・」
伏一貴はその強さ、威圧するオーラから『黒い死神』と恐れられていた。
「さて・・・・」
カルリラが辺りを見回した。
辺りの魔物はカルリラから遠ざかっている。
恐れているようだ。
いや。カルリラの腕を恐れているようだった。
「うおおおおお!」
一人のダークエルフが突っ込んできた。
ビィン!
弓が唸り、ダークエルフを貫いた。
いや、周りにいた三匹までも貫いている。
クワトロアロー・散
トリプルアローの発展技であり、四本の矢を同時に放ち、広範囲の敵を貫く技である。
カルリラは、サイハの特殊能力である『風の矢』により、同時に矢を放つことができ、広範囲に矢を放つことができるのだが・・・
キィィィィン・・・・
「ぐっ・・・・ああ・・・・ガアアアアア!!!!」
カルリラは青く光る左腕を押さえ、叫んだ。
魔物の方をものすごい形相で一喝すると、一瞬で間合いを詰め喉笛を引きちぎった。
その姿に魔物は恐れ、背を向けて逃げ出すが、カルリラはそれを許さず、次々に左手で屠っていく。
自分の回りから魔物がいなくなると、光は消え、カルリラは膝をついた。
死体の中には味方もいた。
「くっ・・・まただ・・・」
カルリラは見境無しに全てを食らう左腕から、『殺し屋の腕』と呼ばれ、伏一貴よりも恐れられていた。
ヒュン! ヒュン! ヒュン!
砲弾とは違い、鋭い物が空を切り、空を飛ぶ魔物に突き刺さった。
「きえされ あしきもの 魔消独鈷!!」
ボシュゥ!!
洋パパから放たれた鋭いもので作られた独鈷が体に埋め込まれた敵は瞬く間に消えてしまった。
聖光魔殺流
遥か昔、エルフと人間の間で起こった戦争時、エルフは人族よりも腕力が弱い事に頭を抱えていた。
対抗策として、現世に伝わるものは火の精霊の力を借り、魔力で剣の力を向上させるものだ。
しかし、もう一つだけあった。
魔力を使うのは同じだが、魔力で向上させるものは剣ではなく、自分自身の肉体にかけるのだ。
この術は今でこそダークエルフに長けているが、それはその魔法を簡略化したものなのだ。
実際この魔法は、永遠とも言われるエルフの生涯の半分を費やして、初めて体得できる物であり、修行は自殺行為といえるものばかりであり、その代償として永遠ともいえる命を失うのだ。
あまりにデメリットが多く、戦争の時にこれほど長い時間はかけられないということで伝わりはしなかった。
では、何故洋パパはこの術を学んだのだろうか?
それも、こんなに短い期間で。
「いまれろ ふりはらえ 業剣!カルマ!」
背の鞘の大きさからはありえない長さの大剣。
その刀身は立ち上がる焔のような姿だった。
その剣の一振りに、辺りの魔物は切り伏せられていく。
・・・その答えを知っているのは彼だけなのだろう。
「罪深きものたちよ。今なら機会を与える。この場より立ち去るがよい」
白いローブに身を包んだラスフェルが決まり文句のように魔物たちに説いた。
もちろん魔物たちには聞こえるはずなく・・・・
「しねえええ!!!」
巨躯な獣に乗ったダークエルフが攻めてくる。
長い槍がラスフェルの体を貫こうとしている。
だが
タン!
ラスフェルの跳躍。
普通なら避けることは不可能だろう。
だが・・・
「な・・・・」
獣に乗ったダークエルフのはるか頭上にラスフェルは居た。
慌てて槍をラスフェルに向けようとするが、槍は地面に突き刺さり、抜くことができない。
そのまま青い光がダークエルフに触れ・・・
キュゥン!!
独特な音を立てダークエルフの武器、鎧、兜、獣を一気に両断した。
切り口から血が出ることはなく、焼け爛れていた。
自分の魔力を光と熱に変換させる『光刃剣』によって作られる光の刃。
アインハザードの祝福を受け、その恩恵を著しく受け取ることのできる人間『聖戦士』にのみに持つことの許される剣だ。
キィン!
ラスフェルに向かってくる二つのコーンオブコールド。
通常ならそれを受けダメージを負うのみだが・・・
バシュン!バシュン!
ラスフェルに向かって放たれた軌道とまったく同じ方向へと魔法を魔物に返していく。
アインハザードの教えにより作られた剣、それは『盾の剣』だった。
ヒュン!
不意に上空から聞こえた風切音に、ラスフェルは体をひねる。
すると自分の居た場所に数枚の硬質化した羽が刺さる。
上空からグリフォン辺りが攻撃してきたのだろう。
ラスフェルは両手を合わせると地面を叩いた。
すると地面から巨大な銛がせり出しすさまじい勢いでグリフォンを貫いた。
錬金術
今でも黒い血痕を他の物質に『性質』を変換させる錬金術師は各地にいる。
だが、原子の『配列』を変換させる錬金術師は『聖戦士』にのみ扱うことができる。
同じ時に生まれた片割れはどうなのだろう・・・・
不意にそんな思いが頭によぎる。
そんなわずかな隙に下半身が巨大な蜘蛛の魔物が襲い掛かる・・・
ドガァァァァン!!!
大きな衝突音に顔を上げると、伏一貴が地面を滑っていた。
その近くには顔の辺りを蹴り抜かれた魔物の死体があった。
―――――縮地(瞬動術の別称)の速度で飛び蹴りをくらったらしい。
「何をしている。ラス」
伏一貴の冷たい声が耳に響く。
「ああ・・・すまない」
と、ラスフェルは苦笑いを浮かべて答えた。
「それとも・・・もうばてたのか?」
口の片方だけを吊り上げて笑う伏一貴。
「まさか。聖騎士をなめるな」
剣を構え直すラスフェル。
戦いはまだ終わりそうにない―――――