その場にいたのは二人。
地面に寝転がっているリン。
立ち上がり、迫っていた触手を左手だけで叩き折ったカルリラ。
―――――――!!!
敵は、痛みよりも驚愕で声なき咆哮をあげた。
「・・・・マスター?」
再びカルリラに呼びかけるリン。
そんなリンを無視し、カルリラは敵を見上げると、
「可愛らしい命ね・・・粉々にしてあげるわ」
まるで新しいおもちゃを見つけたかのように、微笑んだ。
直後、カルリラの姿はその場に無かった。
「ったく・・・斬っても斬っても限が無い」
迫り来る触手を次々と斬っていくラスフェル。
「なんか単調な作業で眠くなってきたな・・・ふぁ・・あっ!!!!(な!背後から魔力!?誰のものでもない!速い!)」
背後から迫り来る巨大な魔力に戦慄する。
「(誰だ!?一体誰が!?おそらく人だろうがこの魔力は・・・魔物!?)」
ラスフェルが思考している間にも、魔力は近づいてくる。
「(この速さでぶつかったらヤバイ・・・やはり向かい合うしか・・・だがこいつらが・・・)」
切った端から再生していく触手に、背を向ける事はできなかった。
そして双方の距離はあとわずか・・・
「(く・・・だめか・・・)・・・・・あれ?」
魔力はラスフェルを通り過ぎ、敵へと向かっていった。
「あはははははははははははは!!!」
楽しい。
これほどの殺戮は何年ぶりだろうか。
砕いた時に芳しい血の香りがしないのが残念だが、甘露のように甘いマナが漏れ出しているのでよしとしよう。
こいつの周りには何人か人がいた。
こいつの仲間だろうか?だったら手出しをするな。
こいつは私のモノだ。
さっきから触手で遊んでいるのだが、もう飽きた。
やはり・・・血の香りがないと物足りない。
「壊したら・・・どんな声で啼くのかしら?」
想像するだけで快感が体を駆け巡る。
じっくりと、啼くまで壊し続けよう。
「あれは・・・?」
「リラ?」
「だがあれは・・・どう見ても別人だろ」
皆、攻撃の手を止めてカルリラらしき人物に目を向ける。
ところどころで消えては現れてを繰り返している様は、伏の縮地のようだ。
そして、左手一本で触手を叩き折り、表面を深く抉る。
それは人では成しえぬ魔の剛。
人には至れぬ境地。
「あははははははは!!!!」
響き渡る高笑いが皆を戦慄させた。
「・・・・・(がくがくがくがく!)」
リンはこれほどまでに無いほど震えていた。
「みなさん!」
リンが少し苦しそうに皆に駆け寄る。
「リン!お前カルリラのところにいたんじゃないのか?」
「はい。でもなんだか苦しそうにしてて・・・気付いたらマスターに殺されそうになって・・・」
「どういうことだ?そういえば様子がおかしかったが・・・」
「左腕を押さえていました。なんか光っていましたし・・・」
「原因は後で考えよう。それよりもこれを好機と見るか?」
「当たり前だろ!今のうちに陣を見つけるぜ!」
そういうと、ラスフェルは走り出した。
「・・・・!!だめ!」
「え・・・」
リオンの声でラスフェルが止まった瞬間、
ガガガガガガガ!!
何かが地面を抉る音が響いた。
前を見ると、ラスフェルの前の地面に深い痕が残っていた。
もし、リオンが止めていなければ、ラスフェルは挽き肉になっていただろう。
「運が良いわね。これが終わったらあなたを壊してあげる」
カルリラが、金の瞳をラスフェルに向けていた。
その眼は「邪魔するな」と、明らかな敵意を向けていた。
「カ・・・・」
ラスフェルは声を上げようとするが出なかった。
それどころか指先一つ動かせない。
「グッ・・・・」
「あら、やめたほうがいいわよ。無理に動くと壊れるわよ?」
「ガッ・・・」
「その悪足掻きは見苦しいわね・・・うざい!」
ドガァァァン!
カルリラが腕を一振りした瞬間、赤い閃光が放たれ、触手を一掃した。
「あなた、もう飽きたわ」
カルリラはそう言うと、地面に降り立ち先程の赤い閃光を放つ。
近くで見るとそれは輪状になっていた。
先程のように一撃ではなく、何十にも重なり根元を六割程度抉る。
「この体じゃこの程度か・・・」
カルリラは呟くと、敵の体に左手の指を全て食い込ませて、その場に留まった。
「何をしてるんだ?」
「分からん。魔力を吸収してるのかも」
「いやそんな流れはないな」
「じゃあ何で・・・」
メキメキ・・・
「今動けないのなら行くべきでは?」
メキメキメキ・・・
「ラスフェル!おい!しっかりしろ!」
「グゥ・・・」
「『彼の者を縛る呪よ!解けたまえ! リムーブカーズ!』・・・治らない・・」
メキメキメキ!
「なんだか・・・うるさくありません?」
「そういえば・・・ッ!」
「どうした?伏・・・・!!」
バキバキバキバキバキ!
「・・・・うそだろ?」
「あの大きさを・・・」
「あの質量を・・・」
「片手で・・・持ち上げるだと!?」
皆の視線の先には、左腕を高々と掲げるカルリラと、その腕の上に真横になっている敵の姿だった。
「あら、少し重いのね。ダイエットしたら・・・どう!」
ブン!
ズゥゥゥゥン・・・
敵が地面に投げ捨てられる音が響く。
カルリラの前には地面に叩き付けられ、触手をくねらせている敵がいた。
「痛覚はまだ生きてる?脊髄は存命?脳漿はこぼれてない?そう、いいこね。息絶えるまでの空白を、絶望で走り抜けなさい」
まるで諭すような穏やかな口調でカルリラは言うと、再び左手を高く掲げ叫んだ。
「偽りの月よ!」
ゴゴゴゴゴゴゴ・・・・
上を見上げると地下に無いはずの月が・・・否、辺りの岩を固めた物が頭上からゆっくりと近づいてくる。
敵よりも大きいのではないかと思うほどの大きさだ。
「なっ・・・」
「・・・・・!!!」
「おいおいおいおい!まずいんじゃねーか!?」
「これほどまでの魔力・・・カルリラ!死ぬぞ!」
「早く逃げるぞ!こっちまで来る!」
「・・・・っと!治った!」
「足が動いたらさっさと逃げるぞ!レッドビー!マステレポートを!」
「そんな暇無い!いいから逃げるぞ!」
カルリラを除く全員が物陰に隠れる。
そして・・・・
―――――――
閃光と、聞こえぬ爆音が辺りを支配した。