第11章 暴走


その場にいたのは二人。



地面に寝転がっているリン。



立ち上がり、迫っていた触手を左手だけで叩き折ったカルリラ。





―――――――!!!



敵は、痛みよりも驚愕で声なき咆哮をあげた。





「・・・・マスター?」



再びカルリラに呼びかけるリン。





そんなリンを無視し、カルリラは敵を見上げると、



「可愛らしい命ね・・・粉々にしてあげるわ」


まるで新しいおもちゃを見つけたかのように、微笑んだ。



直後、カルリラの姿はその場に無かった。










「ったく・・・斬っても斬っても限が無い」




迫り来る触手を次々と斬っていくラスフェル。




「なんか単調な作業で眠くなってきたな・・・ふぁ・・あっ!!!!(な!背後から魔力!?誰のものでもない!速い!)」



背後から迫り来る巨大な魔力に戦慄する。





「(誰だ!?一体誰が!?おそらく人だろうがこの魔力は・・・魔物!?)」




ラスフェルが思考している間にも、魔力は近づいてくる。




「(この速さでぶつかったらヤバイ・・・やはり向かい合うしか・・・だがこいつらが・・・)」



切った端から再生していく触手に、背を向ける事はできなかった。





そして双方の距離はあとわずか・・・





「(く・・・だめか・・・)・・・・・あれ?」




魔力はラスフェルを通り過ぎ、敵へと向かっていった。












「あはははははははははははは!!!」




楽しい。



これほどの殺戮は何年ぶりだろうか。





砕いた時に芳しい血の香りがしないのが残念だが、甘露のように甘いマナが漏れ出しているのでよしとしよう。



こいつの周りには何人か人がいた。



こいつの仲間だろうか?だったら手出しをするな。






こいつは私のモノだ。





さっきから触手で遊んでいるのだが、もう飽きた。



やはり・・・血の香りがないと物足りない。






「壊したら・・・どんな声で啼くのかしら?」





想像するだけで快感が体を駆け巡る。





じっくりと、啼くまで壊し続けよう。













「あれは・・・?」




「リラ?」



「だがあれは・・・どう見ても別人だろ」



皆、攻撃の手を止めてカルリラらしき人物に目を向ける。





ところどころで消えては現れてを繰り返している様は、伏の縮地のようだ。




そして、左手一本で触手を叩き折り、表面を深く抉る。



それは人では成しえぬ魔の剛。



人には至れぬ境地。







「あははははははは!!!!」






響き渡る高笑いが皆を戦慄させた。










「・・・・・(がくがくがくがく!)」



リンはこれほどまでに無いほど震えていた。








「みなさん!」





リンが少し苦しそうに皆に駆け寄る。




「リン!お前カルリラのところにいたんじゃないのか?」







「はい。でもなんだか苦しそうにしてて・・・気付いたらマスターに殺されそうになって・・・」




「どういうことだ?そういえば様子がおかしかったが・・・」



「左腕を押さえていました。なんか光っていましたし・・・」



「原因は後で考えよう。それよりもこれを好機と見るか?」



「当たり前だろ!今のうちに陣を見つけるぜ!」



そういうと、ラスフェルは走り出した。










「・・・・!!だめ!」





「え・・・」




リオンの声でラスフェルが止まった瞬間、



ガガガガガガガ!!



何かが地面を抉る音が響いた。




前を見ると、ラスフェルの前の地面に深い痕が残っていた。




もし、リオンが止めていなければ、ラスフェルは挽き肉になっていただろう。










「運が良いわね。これが終わったらあなたを壊してあげる」




カルリラが、金の瞳をラスフェルに向けていた。







その眼は「邪魔するな」と、明らかな敵意を向けていた。







「カ・・・・」


ラスフェルは声を上げようとするが出なかった。



それどころか指先一つ動かせない。





「グッ・・・・」



「あら、やめたほうがいいわよ。無理に動くと壊れるわよ?」




「ガッ・・・」



「その悪足掻きは見苦しいわね・・・うざい!」



ドガァァァン!






カルリラが腕を一振りした瞬間、赤い閃光が放たれ、触手を一掃した。







「あなた、もう飽きたわ」





カルリラはそう言うと、地面に降り立ち先程の赤い閃光を放つ。


近くで見るとそれは輪状になっていた。






先程のように一撃ではなく、何十にも重なり根元を六割程度抉る。




「この体じゃこの程度か・・・」



カルリラは呟くと、敵の体に左手の指を全て食い込ませて、その場に留まった。










「何をしてるんだ?」



「分からん。魔力を吸収してるのかも」



「いやそんな流れはないな」





「じゃあ何で・・・」




メキメキ・・・




「今動けないのなら行くべきでは?」



メキメキメキ・・・







「ラスフェル!おい!しっかりしろ!」




「グゥ・・・」



「『彼の者を縛る呪よ!解けたまえ! リムーブカーズ!』・・・治らない・・」




メキメキメキ!





「なんだか・・・うるさくありません?」




「そういえば・・・ッ!」




「どうした?伏・・・・!!」






バキバキバキバキバキ!








「・・・・うそだろ?」



「あの大きさを・・・」



「あの質量を・・・」



「片手で・・・持ち上げるだと!?」





皆の視線の先には、左腕を高々と掲げるカルリラと、その腕の上に真横になっている敵の姿だった。






「あら、少し重いのね。ダイエットしたら・・・どう!」



ブン!



ズゥゥゥゥン・・・






敵が地面に投げ捨てられる音が響く。




カルリラの前には地面に叩き付けられ、触手をくねらせている敵がいた。







「痛覚はまだ生きてる?脊髄は存命?脳漿はこぼれてない?そう、いいこね。息絶えるまでの空白を、絶望で走り抜けなさい」





まるで諭すような穏やかな口調でカルリラは言うと、再び左手を高く掲げ叫んだ。






「偽りの月よ!」





ゴゴゴゴゴゴゴ・・・・





上を見上げると地下に無いはずの月が・・・否、辺りの岩を固めた物が頭上からゆっくりと近づいてくる。



敵よりも大きいのではないかと思うほどの大きさだ。





「なっ・・・」



「・・・・・!!!」



「おいおいおいおい!まずいんじゃねーか!?」





「これほどまでの魔力・・・カルリラ!死ぬぞ!」




「早く逃げるぞ!こっちまで来る!」




「・・・・っと!治った!」



「足が動いたらさっさと逃げるぞ!レッドビー!マステレポートを!」



「そんな暇無い!いいから逃げるぞ!」





カルリラを除く全員が物陰に隠れる。






そして・・・・




―――――――




閃光と、聞こえぬ爆音が辺りを支配した。

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