| *第1章 運命の歯車が回り始める時* かつてこの世界には、魔力が宿る5つの宝石があった。 一つは、火の宝石ルビー。 宿る魔力は、力。 一つは、海の宝石サファイア。 宿る魔力は、癒し。 一つは、森の宝石エメラルド。 宿る魔力は、知恵。 一つは、光の宝石ダイアモンド。 宿る魔力は、創造。 一つは、闇の宝石オニキス。 宿る魔力は、破壊。 創造神アインハザードは、ダイアモンドを自分の手元に残して、 残り4つの宝石を、信頼する4人の王に託した。 ルビーを人間の王、アダムに。 サファイアを海の女王、マーメイドに。 エメラルドを森の女王、マザーツリーに。 オニキスを闇の王、グランカインに。 しかし、グランカインは己の欲望に勝てず、 全ての宝石を手に入れて、世界を支配しようと考えた。 同時に、宝石を我が物にせんと企んだ人間によって、各地で暴動が起こる。 欲に支配された人間の手によって、 海の女王マーメイドは惨殺され、サファイアは人間に略奪された。 マーメイド女王の死に深く悲しみ、人間に絶望した森の女王マザーツリーは、 多くのガーディアンを護衛にして森に結界を張り、人間の侵入を拒んだ。 更に、宝石が人間に奪われる事を恐れ、 エメラルドを自分の根元深くに埋めて、永久に封印した。 アインハザードは、友の命を奪った人間達に激怒し、ルビーから魔力を奪った。 力を失ったルビーは大きな炎となり、人間達の街を3日3晩焼き尽くした。 人間の王アダムは、人間達の暴動を阻止出来なかった己の力量を悔いた。 王妃イヴの支えもあり、 臣下達と共に、各地で起こっていた争いの鎮圧に、力を注ぐ事を決意する。 しかし、機会を狙っていたグランカインの策謀により、 鎮圧の最中に暗殺される。 アダム王の死を目の当たりにして、自らの行いを深く後悔した人間達は、 王の亡骸に向かい涙を流しながら、 争いを止めて宝石を永久に封印する事を誓った。 奪ったサファイアと、国宝のルビーを粉々に砕き、 アダム王の亡骸と共に、祈りを込めて海へと流した。 砕いた時に出来た一番大きな欠片は、 海の神殿に奉納して、マーメイド女王への謝罪の証とした。 グランカインと、人間達の裏切りにより、 二人の友を失ったアインハザードは、絶望と後悔に苛まれていた。 信頼の証として託した宝石が元で、 多くの混乱と殺戮を招いた事にも、失望していた。 アインハザードはその悲しみの心を、ダイアモンドに託しながら自らの手で砕き、 世界にその粉を振り撒いた。 粉は小さな無数の光となり、世界を包む様に大地へと降り注いだ。 その光景を見た人間達は、 [アインハザードの涙]と表現して、子孫へと言い伝えた。 友を裏切り、宝石の略奪にも失敗したグランカインは、 アインハザードによって世界から追放された。 闇の宝石オニキスと共に、奈落の底へと永久に投獄されたと言われているが、 その詳細を知る者は存在せず、 グランカインの生存は、事実と共に未だ闇の中である。 象牙の塔厳重管理文献:歴史記録書より。 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ふぅ」 「おやおや、セシル様お疲れですか?」 溜め息と共に、読んでいたというよりは、 文字と睨めっこしていたセシルが、本を閉じた。 それを、横で同じように本を眺めていたゼルが、苦笑交じりに話しかけた。 「もう!様をつけて呼ばないで欲しいって、あれ程言ってるじゃないゼル」 「すみません・・・どうも昔からの癖で」 「この本、難しい文字ばかり多くて、1ページ読むのにとても疲れるわ」 ぐったりと椅子にもたれかかるセシルの横で、 ゼルは自分が開いている本の半分を、既に朗読し終わっていた。 「グンター様は例外だけど、 キル君もゼルも、どうしてそんなにスラスラ読めるの〜・・・」 セシルが膨れっ面でゼルを睨むと同時に、書庫の扉を誰かがノックした。 「あ!キル君」 「あはは、扉の外までセシルちゃんの声が聞こえてたよ!」 クスクスと笑いながら、両手にお茶とお菓子を一式乗せたお盆を持って、 キルティオが書庫へ入ってきた。 「僕だって、お師匠様の所に弟子入りしたばかりの頃は、 その本を読むのに苦労したよ」 「キル君は、グンター様のお弟子さんなのだから読めるのは分かるけど・・・」 キルティオが入れたお茶を受け取りながら、セシルがゼルに視線を向ける。 セシルに膨れっ面で睨まれたゼルは、苦笑を浮かべながら肩をすくめた。 「確かにゼルさんは、一般の人が知らない難しい文字でも、結構読めてますよね」 「いえ、私の両親が象牙の塔の管理職にあったもので、 幼少の頃から多くの本を見ていて、自然と覚えただけですよ」 「へぇ〜、ゼルさんって剣を扱うのが上手いから、 どこかの貴族の騎士だと思ってたけど・・・」 「それは・・・・」 「キル君、今日はもう魔法の修行は終わりなの?」 ゼルが答えを濁していたのを庇うかのように、セシルが瞬時に話題を変えた。 「うん。お師匠様が少し出かけるから、セシルちゃんと遊んで良いって!」 「わぁ、何して遊ぼうか」 「そういえば、この間見つけたブレイブラビットの巣で、 赤ちゃんが5匹生まれてたんだよ」 「ほんと!?」 「うん!すごく可愛いんだよ、見に行こうか」 「行く行く!」 「セシルさ・・・セシル、キルティオ殿、 あまり遠くまで行かれない様に注意して下さいね」 「「はーーーーい」」 「いってきまーす」と、元気良く飛び出していく二人の姿を見送った後、 ゼルは軽く溜め息をついた。 「騎士か・・・キルティオ殿は時々鋭いから焦りますね」 ゼルの独り言は、書庫の空間で静かに消えていった。 ←Back Next→ |